あなたの知らない合成宝石の話
きらきらの光物、特に宝石の類いには目がない筆者です。
宝石の魅力ってもちろん希少性もあるのでしょうが、結局のところ「めっちゃキレイ!」だから昔から崇められきたんだと思います。だってダイヤモンドもキレイだけど、たくさん採掘される宝石もキレイですものね。
ではもし宝石を、人の手で自由に作り出し、採掘する必要がなくなったら?
今回はそれを実現してしまっている、「合成宝石」の話。
Photo by Peter Richardson
【キュービックジルコニアは合成宝石なの?――合成宝石と人工宝石の違い】
「合成宝石ってさ、キュービックジルコニアのことでしょ?」
ダイヤモンドの模造品として出回っているキュービックジルコニア。今では本当に身近な存在となりましたよね。ダイヤモンドと同じ屈折率を持ちながらも安価なので、普段使いのアクセサリーにはぴったりの素材です。
でも、キュービックジルコニアは今回お話しようとしている合成宝石には含まれません。
人間の手で作り出した宝石には、「合成宝石」と「人造宝石」とがあるからです。
●合成宝石
・・・天然宝石と比べ、化学組成と結晶構造が全く同じ宝石のこと。そのため屈折率や光沢、密度に至るまで同じ。むしろ不純物が含まれないため、天然宝石より美しいこともある。
●人造宝石
・・・見た目こそ天然宝石によく似ているが、化学組成が全く異なる石。天然にはそもそも存在しない宝石である。なお、不純物が含まれないという点では合成宝石と同じ。
両者とも宝飾品や工業用として用いられます。
キュービックジルコニアはダイヤモンドに似てはいますが、その化学組成は全く異なり、自然界には無い宝石です。だから人造宝石に該当するんですね。
これら2つをまとめて「人工石」と呼ぶこともあります。
【合成宝石は養殖魚!?】
さきほどの説明をご覧になって、
「じゃあ合成宝石は天然宝石と同じ物ね」
と感じた方と
「結局ニセモノだよね」
という全く逆の感想を抱いた方がいらっしゃるかもしれません。
合成宝石は、化学組成と結晶構造が全く同じなので、化学的にいえばもちろん天然宝石と全く同じ石です。
でも「しょせんは人の手によって作りだされたものだ」という点にこだわる人にとっては、ニセモノという風に映ってしまうのかもしれませんね。これは天然の魚がいいか養殖の魚でいいか、という議論に近いでしょう。
そもそも宝石が宝石である条件として、「希少性」を含むという考え方もあります。
であれば、大量生産できてしまう合成宝石は宝石ではないということになってしまいますよね。
ということは、全く同じ化学組成の石であるのに、一方は宝石であり、他方は宝石ではない、ということになるわけです。「合成宝石の均一性のある美しさではなく、天然宝石のムラのあるところがいい」なんていう意見もありそうですね(でもじゃあ、ムラのある合成宝石が作れちゃったらどうなるんだ?)。
【合成宝石はすでに身近な存在!】
いくら天然宝石重視派の人がいたとて、合成宝石は私達が考えている以上にすでに一般的です。
「合成ルビー」というネーミングでは色気がないので、現在では「シンセティック・ルビー」などという名で売られていることが多いのですが、ぜひ一度「シンセティック・○○○(宝石の名前)」で通販サイトで検索してみてください。美しい合成宝石たちに目が奪われることでしょう。
そもそも、天然宝石も宝飾用として出回る前に、人の手を加える処理を行うのはごくごく普通のことです(処理しない宝石ももちろんありますが)。加熱や着色、ワックスなどで色を変えたり、光沢をさらに出したりしているんですよ。
合成宝石を作ることと、人の手によって処理することのボーダーは意外と近いように思います。
あなたの家の宝石箱の中、本当に天然宝石だけでしょうか?
【最後に】
天然にはありえない大きさ、均一性のものを作りだすことができるのが人工宝石の魅力です。
ちなみに、日本では「京セラ」が特に開発に力を入れており、京セラの開発した加工しやすいオパールは人工宝石をより私たちに手に取りやすい存在にしようとしています。
「美しい天然宝石」「美しくない天然宝石」「美しい合成宝石」……今後人工宝石の分野はめまぐるしく発展し、宝飾における選択肢をさらに広げてくれることでしょう。